この作品は、映画美学校在学時から耽美的かつ官能的な映像が高く評価されていた新鋭・
金子雅和が、同校修了製作として瀬々敬久の監修のもと作り上げた長編第1作目。
失踪した妹、すみれを捜し求める腹話術師が主人公という特異な物語設定と、エロスと残酷に
満ちた世界観が、これまで上映された映画祭などで賛否両論を生んできた(ひろしま映像展撮影賞・
うえだ城下町映画祭審査員賞)。
主役の腹話術師を『肌の隙間』(監督:瀬々敬久)で鮮烈な主演デビューを飾った小谷建仁が、
実際に腹話術もこなし体当たりで熱演した。
ヒロインであり、すみれの面影を感じさせる謎めいた女には『ガールフレンド』(監督:廣木隆一)
で映画初出演、初主演を果たした山田キヌヲが、それまでのボーイッシュなイメージと対極の、
艶かしくも儚い役柄に挑戦している。
そのほかにも、NHK『芋たこなんきん』などで活躍の松岡龍平、この冬『魁!!男塾』『奈緒子』ほか
出演作の公開が相次ぐ綾野剛、『ナイン・ソウルズ』のマメ山田、現代美術家の松蔭浩之をはじめ
として、現役のストリッパーや浅草の芸人といったひと癖もふた癖もある個性的なキャストが、
作品の世界観にリアリティを与えている。
全編を飾る流麗なサウンドを作り上げたのは『東京ゾンビ』のサントラも手掛けた異才・竹久圏。
そして、監督自身がこだわり抜いて探し出した滝・廃墟・森などの圧倒的なロケーションに浮かび
上がる官能美が、作品の最大の見せ場となっている。
ある地方都市の寂れた寄席で、夜な夜な奇妙な腹話術人形劇を演じる男がいる。
男の名は文月(小谷建仁)、少女のような声で「すみれ」と名づけた人形の言葉をしゃべる。
すみれは5年前に右腕だけを残し失踪した、文月の妹だ。
腹話術師のかたわら妹を探し続ける文月は、ある日偶然訪れたストリップ小屋で、すみれの
面影を強く感じさせる美しい女、蜜子(山田キヌヲ)を見かける。
その女を追い求めていくうち暗い森へと足を踏み入れてしまった文月は、すみれが失踪して
間もなく姿を消した幼馴染みの螢介(松岡龍平)と再会する。
子供の頃から樹木医になることを夢とし、すみれの恋人でもあった螢介は森の奥に建つ廃墟で、
いなくなったすみれを樹木で再生させようと、狂った実験に没頭していた。
すみれを捜し求める男たちは、それぞれの愛によって激しく引き裂かれていく・・・。